証券取引所とは何でしょうか。2000年代と2010年代に、世界の大きな証券取引所同士の再編が進みました。ニューヨーク証券取引所を傘下に持つNYSEユーロネクストと、ドイツ取引所は合併し、世界最大の取引所連合が誕生しました。経済のグローバル化で取引所間の競争が激しくなり、経営効率化やサービス向上を迫られているためです。スナップアップ投資顧問のレポートなどを参考に、Q&A形式で紹介します。


証券取引所とは

Q 証券取引所とは何でしょうか

企業が、工場を建てたり大規模な研究開発を行ったりするには、たくさんの資金が必要だから、企業は株式などの「有価証券」を発行して、投資家に買ってもらう。その有価証券を売り買いしている場所が証券取引所だ。

証券取引所には「A会社の株を●円で買いたい」「B会社の株が▲円になったので売りたい」など、投資家から多くの注文が集まる。売りと買いの価格が合えば取引が成立し、市場価格が決まる。株価は、その企業の業績がもっと良くなるから買いたいと思う人が増えれば上がる。逆に業績が悪くなるから売りたいと思う人が増えれば下がる。投資家は、株価が下がったところで買って、高くなったところで売ればもうかるわけだ。

投資家は、国内外の経済の動きだけでなく、政治動向や世界情勢など、さまざまな要因を分析し、これから株価が上がるか下がるかを予想して売り買いするから、株価は一日のうちでも刻々と変化する。

東京証券取引所では、1999年4月まで、「場立ち」と呼ばれる証券会社の担当者が、注文内容を「手サイン」と呼ばれる身ぶり手ぶりで伝え、取引を成立させる光景が見られた。今は、証券会社がコンピューター・システムで注文内容を送り、取引所のシステム上で突き合わせる「電子取引」になっている。

取引所は、取引を認めるかどうか、企業の経営状態などを審査する。倒産すれば株式の価値がなくなってしまい、投資家が大きな損失を被ることもあるからだ。基準を満たした企業は取引所に「上場」され、その取引所で株式の売買ができる。

上場した企業は、決算などの経営状況をルールに従って定期的に報告し、合併などの経営上の重要な決定を行った場合にはただちに発表しなければならない。特定の投資家が内部情報をもとに不正にもうける「インサイダー取引」などを防ぐことにもつながる。

Q なぜ合併

国境超えメガ市場化 規模拡大で魅力アップ

NYSEユーロネクストとドイツ取引所が2011年2月15日、年内の合併で合意したのは、規模を拡大することで魅力を高める狙いがある。上場企業をたくさん誘致し、取引がさかんになれば、手数料収入などのもうけにつながる。

2010年の売買代金(電子取引のみ)を合算すると約21兆4400億ドル(約1800兆円)。2位のナスダックOMXグループの約13兆4000億ドルを引き離し、圧倒的な規模の「メガ取引所グループ」が誕生する。

今回、再編に踏み切った背景には、安い手数料と取引の高速処理を武器に欧米で急成長している「私設電子取引所」に顧客を奪われているという危機感がある。

NYSEとドイツ取引所は、合併によるコスト削減効果を「3億ユーロ(約340億円)」と見込む。情報システムの整備にお金を回すことで、私設取引所に対抗する構えだ。

さらに、高度な金融技術を使って、高い収益につながるデリバティブ(金融派生商品)取引を強化するのも狙いだ。通常の株式の取引は、手数料の引き下げ競争でもうかりにくくなっているためだ。

ドイツ取引所は、世界有数のデリバティブ取引所「ユーレックス」を運営しており、NYSEとの合併で、先物やオプション(権利)取引などの魅力アップにつなげたい考えだ。

中国やインドなどの新興国でも、経済の急成長に伴って、香港やムンバイなどの証券取引所の規模が大きくなってきた。

NYSEのニーダラウアー最高経営責任者(CEO)は合併に合意した際の記者会見で、「新会社はアジアでも存在感を示せる」と述べ、日本を含むアジアの証券取引所との連携も図る考えを示した。

Q 合併の歴史は

EU誕生で機運

国境を超えた取引所再編の動きは、2000年代初めに欧州で始まった。欧州連合(EU)が誕生し、域内の経済的な結びつきが強まったことが背景にある。

2000年、パリ、アムステルダム、ブリュッセルの3取引所が合併して「ユーロネクスト」が誕生した。また、2003年のストックホルムとヘルシンキの取引所合併をきっかけに、北欧やバルト諸国の取引所を傘下に収める「OMX」の原型が生まれた。

欧州にとどまらず、世界的な再編に発展したのが2006~2008年だ。ユーロネクストは、ニューヨーク証券取引所などを持つNYSEグループと合併し「NYSEユーロネクスト」に、OMXは、米ナスダックと合併して「ナスダックOMX」となった。ともに、北米と欧州に有力市場を持つ巨大取引所グループが誕生した。

ほかにも、ナスダックによる買収提案を拒否したロンドン証券取引所が、イタリア取引所と合併した。カナダでは、トロント証券取引所とモントリオール取引所が合併してグループになるなど、各地で再編が進んだ。

2008年秋のリーマン・ショックによる金融市場の混乱を受けて、取引所再編の流れはいったん止まった。

しかし、2011年に入って、ロンドンとトロント、NYSEユーロネクストとドイツ取引所が、それぞれ合併で合意した。新興国がけん引する景気回復の流れを受け、世界的な取引所再編が再び動き出した。

アジアにも再編の波は及んでいる。シンガポールとオーストラリアの取引所は2010年10月、合併で合意した。韓国の取引所が、ラオスなどで取引所の新設を支援するなど、国をまたいだネットワークも生まれつつある。

Q 経済への影響は

国の発展を左右

市場の魅力が薄れると、上場を希望する企業が少なくなる恐れがある。投資家の注目度が下がれば、売買が低調になって、国内外から投資マネーが集まらなくなるという悪循環に陥ってしまう。市場の衰退は、その国の経済全般にマイナスの影響を及ぼすことにつながる。

アジアでトップだった東京証券取引所の年間の株式売買代金は、2009年、2010年と2年連続で中国の上海証券取引所に抜かれた。経済成長が著しい中国では上場企業が増え、投資家も活発に売買することから、上海市場の規模が急速に拡大している。

証券取引所に成長が期待できる企業がたくさん上場していれば、投資家の資金が多く集まる。企業が上場する際にも、取引が活発な市場なら、新たな株式を発行して資金を集めやすい。調達した資金で新たな事業に投資して成功すれば、会社は大きくなり、株主も株価の上昇や配当金で利益を得る。

一方、東証では、経営陣による企業買収(MBO)で上場廃止を選択する企業が相次いでいる。上場企業には、決算発表など投資家向けの情報開示や法令順守に必要な措置を講じるためのコストがかかり、負担が大きい。上場で資金を集めやすい利点と、上場にかかるコストを比べ、非上場を選択する企業が増えているとみられる。

Q 日本の現状は

「乗り遅れ」指摘も

取引所の国際的な再編が進む中で、日本の取引所がこのままでは取り残されてしまうとの懸念が強まっている。

国内の証券取引所5か所のうち、最大の東京証券取引所(東証)がシンガポール取引所に4・9%出資している以外、海外取引所と本格的に資本関係を結んだ例はない。

再編を考える上では、東証自身が株式を上場していないことが課題になっている。東証の斉藤惇社長は「(欧米とは)状況が異なる」と述べ、上場していない東証が再編に乗り出すことに慎重な見方を示す。

東証は今も、海外の取引所23か所と提携している。NYSEユーロネクストからデリバティブ取引向けのシステム開発支援を受けたほか、ロンドン証券取引所のノウハウを活用した新市場「東京エイム(AIM)」を合弁で設立した。

大阪証券取引所は、デリバティブ分野や新興市場ジャスダックの強化を図るため、米ナスダックやシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)などとの連携を深めている。

しかし、世界のライバルが再編で巨大化していく中で、日本の取引所の取り組みは大胆さに欠ける。今後の国際戦略をどう描くか、大きな課題となりそうだ。